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埼玉県を中心に自然エネルギーの普及を目指すNPO法人です

代表理事に訊くinterview

埼玉自然エネルギー協会(以下、協会)とは、どんな協会なのか、どんな活動をしているのか、またしていこうとしているのか、新規会員M氏(以下M会員)が吉村文則代表理事(以下、代表)に訊きます。

埼玉自然エネルギー協会の活動について(2016年8月)

M会員:協会設立総会のアピールにあるように、自然エネルギーに恵まれた埼玉で、自然エネルギーの普及を目指す協会を立ち上げた意義は大きいと思います。はじめに、協会がどんな経過でつくられたのか、教えてください。
代 表:私たちが埼玉自然エネルギー協会をつくることになった動機は、2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原発事故の発生でした。私たちがあたりまえのように使っている電気が原子力発電に大きく依存し、しかも、その原子力発電がいかに危険なものかを知ったことです。
これを契機に、私たちは、エネルギー問題、日本経済、日本社会のあり方について学習会を重ね、日本や世界のとりくみを見聞し、それらを通じて、自然エネルギーの活用が21世紀の課題であると確信し、エネルギーをもっぱら消費しているこの埼玉でも、この地にふさわしく自然エネルギーの活用に取り組もうと決意し、2013年7月27日、有志で、特定非営利活動法人埼玉自然エネルギー協会設立総会を開催するにいたったものです。

M会員:世界や日本のとりくみを見聞されたとはどんなことですか。
代 表:会をつくろうと相談した仲間は、いっしょに、オーストリアやドイツでの自然エネルギー活用を視察しました。そこでは、地域に眠る自然エネルギーに着目し、端材や牧草というバイオマス資源を熱と発電に活用し、地域から流出していた資金を域内にとどめ、仕事をつくり雇用を生み出し、貧しい地域からの脱却をはかっていました。また、酪農家が乳牛を飼うとともに、間伐材や端材で熱を生み出し、太陽光パネルを設置し、お酒を造り、協同で風車をたてて所得を得るという第一次産業とエネルギー創出を結びつけた暮らしのたて方をされていました。エネルギーは地産地消するとともに、域外に供給・販売していました。
日本でも、飯田市(長野県)、葛巻町(岩手県)、梼原町(高知県)などでは、地域の自然エネルギーを活用する挑戦を目の当たりにしました。
また、これらを見聞するとともに、学習をかさねるなかで、世界がすすもうとしている新しい方向もみえてきました。

M会員:世界がすすもうとしている新しい方向とはどういうことですか。
代 表:3・11を契機にエネルギー問題を考えますと、世界では、20世紀後半になって、化石燃料などエネルギーの野放図な費消を前提にした大量生産・大量消費・大量廃棄が人類と生物の生存条件を破壊するとの認識がひろがり、この経済のあり方からの脱却が大きな課題となってきました。1992年には、地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)が開かれ、大気中の温室効果ガス(その中心は炭酸ガスCO2)の濃度を1990年レベルに安定化させることを目標とする「気候変動に関する国際連合枠組条約」を採択、地球温暖化対策に取り組むことが合意されました。1995年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催され、昨年12月のCOP21(パリ会議)には世界196カ国が参加、地球の平均気温上昇を2℃よりはるかに低い水準に抑え、1.5℃に抑制するために行動しようとのパリ協定が採択されるに至りました。
原子力発電については、アメリカのスリーマイル島事故(1979年)、ソ連のチェルノブイリ事故(1986年)を経て、原発建設にブレーキがかかり、市民がつくったシェーナウ電力会社(ドイツ)や原発廃止を選択したサクラメント市(アメリカ)など、市民による脱原発・自然エネルギー活用と省エネの動きがはじまりました。
2015年、自然エネルギーへの投資額は年間2859億㌦(35兆円超 国連環境計画まとめ)、風力発電の設備容量は原発を上回り、自然エネルギーによる発電量は世界の23.7%を供給するまでになっています(自然エネルギー世界白書2016)。
また、世界では、エネルギーを消費しない断熱性の高い建築物、エネルギーの効率的な利益が当然の目標とされています。近年では、世界は、エネルギーの消費量やCO2の排出量を増やさずに経済成長する新たな段階を迎えつつあります。

M会員:なるほど、協会設立の経緯は分かりました。埼玉県で暮らす私たちにとって、エネルギー問題をどういう存在で、今後どうしたらいいでしょうか。
代 表:埼玉県は、人口720万、世帯数280万、民営事業所24万で、県内総生産20兆3700億円、エネルギー消費量63万TJ(1760億kwh)、電灯使用量147億kwh、いずれも全国5位の地位を占めます(埼玉県再生可能エネルギー導入拡大のための報告書)。こうした埼玉県に住む私たちは、エネルギー問題について、受動的ではないでしょうか。電気やガスは、それぞれ、コンセント、ガス栓から、さらに燃料については、ガソリンスタンドに行けば簡単に手に入り、当たり前のように費消する生活を送っています。
それが、どこで生産され、どこから運ばれたものかまでは、なかなか思い至りません。 福島の原発事故は、私たちにそのような受動的な姿勢に反省を迫るものとなりました。私たち埼玉県民の多数は都市部に暮し、製造業などの第2次産業や、飲食・サービスなどの第3次産業で働き、その所得をもってエネルギーを購入する生活をしています。「できるだけ安い価格で、電気やガスの供給をしてもらえばよし」という生活スタイルになっているのではないでしょうか。このような生活は、結局、化石燃料や輸入ウランによる大規模集中型のエネルギー供給に依存する生活です。日本の食糧自給率は40%に達しませんが、エネルギーにいたってはさらに低く4%に過ぎません。
ひるがえって埼玉県には、自然エネルギーが、快晴日数日本一の太陽エネルギー(太陽光・太陽熱)があり、さらにバイオマスなどを含めると、県内で費消するエネルギーの7倍を超えるポテンシャルが存在しています。利用可能量としても3割近くあるとされます。これには、中小水力や風力は含まれません。しかし、このうち実際に利用されているのは、自然エネルギーポテンシャルの1.6%程度に過ぎず(但しバイオマスを除く)、大きな潜在的な可能性があるということです。

M会員:協会の活動の目標と、それを達成するために取り組んでいることを教えてください。
代 表:エネルギーの節約と効率化、自然エネルギーの活用には、国の政策が決定的ですが、ドイツなどの経験が示すように、国の政策をかえていくためにも、地方での活動、市民の活動が大切です。
私たち埼玉自然エネルギー協会の目的は定款(第3条)にも書いてあるように、「自然エネルギー(再生可能エネルギー)の普及、省エネに関するとりくみを行い、持続可能な地域社会づくりに寄与する」ことです。
そのために、次の2つの柱に基づいた活動をすすめます。
一つの柱は、広く県民のみなさんとともに、学び、交流し、提言し、情報を発信していく活動で、具体的には以下のことをすすめていきます。
もう一つの柱は、自然エネルギーの活用、省エネの推進にかかわる事業をすすめることです。

M会員:はじめの柱は、具体的にはどんな活動ですか。
代 表:つぎのような活動をすすめることにしています。
(1)自然エネルギー活用をすすめるため、学習をすすめる。
「自然エネルギーとは」「世界と日本の自然エネルギー活用のとりくみ」「地球温暖化防止はなぜ大事」「原発ゼロはなぜ必要」「省エネ―何が大事」「電力システム改革の大事なポイントは」など。
(2)全国・世界の経験に学ぶ見学・視察、交流をすすめる。
(3)埼玉県・市・町・村のとりくみを調べ、提言し、自然エネルギーの普及への共同を追求する。
(4)全国の仲間と連帯し、国に原発ゼロ・温暖化防止へ自然エネルギー普及の施策を求めていく。
こうした方針のもと、定期的な「学習と討論の場」をもつように努力してきました。
これまでに、学習講演会として、「世界と日本の自然エネルギーのとりくみ」(2014.7)「地球温暖化問題を考える」(2013.12)、「再生可能エネルギー中心の社会をめざす市民の役割」(2015.12)などの基本とともに、全国各地のとりくみ―「自然エネルギーの地産地消で地域経済の活性化をめざす」(2014.6)、「脱原発でふるさとを取り戻す福島県会津のとりくみ」(2015.6)、「自然エネルギー活用で持続可能な循環型社会をめざす飯田市のとりくみ」(2016.6)などを開き、学んできました。
そして埼玉県全域あるいは小川町での活動を伝える「埼玉の自然エネルギーの活用で温暖化防止・原発ゼロ、持続可能な社会を」(2014.7)との講演会を開き、学びました。また今日的なテーマ「電力自由化、市民は行動すべきか」(2016.3)との学習会を開きました。

M会員:もう一つの柱の事業では具体的にどんなとりくみをされてきましたか。
代 表:事業では、つぎのような活動にとりくむ方針です。
(1)埼玉に豊かな太陽エネルギーの活用―太陽光発電などの事業をすすめる。
(2)都市部のエネルギー消費者が、バイオマスや小水力の活用にとりくむ地域と協働していく。
(3)私たちのエネルギー消費を調べ、省エネのとりくみをすすめる。
実際のとりくみでは、埼玉県の市民共同太陽光発電事業補助制度を活かし、県民のみなさんの募金や出資金で、保育園2カ所(さいたま市緑区のめだか保育園、上尾市のスターファーム保育園)、高齢者施設(三郷市のデイサービスセンター采女の里)に、市民共同太陽光発電所を設置し、原発ゼロ・温暖化防止へ、小さな一歩ですが、貢献する取り組みができました。
以上のように、私たちはまだスタートしてから3年で、まだまだ限られた活動ですが、確かな歩みを始めることが出来たと思っています。

M会員:アピールの中でいくつかの自然エネルギーが挙がっていますが、埼玉で推進するのに最も適した自然エネルギーは何だと思いますか?
代 表:やはり、太陽エネルギーでしょう。埼玉県は快晴日数が56日で日本一、日照時間は2255時間で、山梨県(2358時間)、静岡県(2269時間)に続く第3位です。
同時に、県の報告書は、バイオマスエネルギーの大きな可能性を指摘しています。風力や中小水力のエネルギーのポテンシャルについては、調査ができていないとしています。しかし、これらも、埼玉県西部に大きなポテンシャルがあることは明らかです。

M会員:自然エネルギーの普及は、協会だけではなかなか難しいと思います。埼玉県やさいたま市などの自治体も補助金制度を作るなどで支援していると聞いています。そのへんの状況を教えてください。また、他のNPO法人や企業、協同組合・団体などとの協同活動はすすめていますか?
代 表:先に述べましたように、私たちはこの3年間、埼玉県の補助制度を活用した取り組みをしてきました。県内の自治体にはさまざまな支援制度があると思います。ただ、県の制度も、太陽光発電設備を設置するとりくみをストレートに支援するというものではありません。公益的団体(NPOなど)が、公益的施設に太陽光発電を設置する事業を通じて、環境教育活動を展開、県民の太陽光発電事業への参加、温室効果ガスの削減への寄与を支援しましょうという目的で、補助金を交付するという制度です。
県内の自治体には、さまざまな制度あるかと思いますが、私たちはそのすべてを承知しているわけではありません。これらについては、会内外のみなさんの知恵と力をあつめて、その活用にとりくみたいと考えています。自治体には、公共施設の屋根や土地の提供をいただき、市民の資金を集めて、太陽光発電を設置するなど、自然エネルギーの活用へさまざまな支援をいただければと考え、必要な提言もしていきたいと考えています。
私たちは、新米のNPO団体ですので、先輩にあたる諸団体の知恵を借り、取り組みをしてきました。「認定NPO法人環境ネットワークさいたま」が県の補助制度を活用し、地球温暖化防止への県民の意識を高める活動に取り組んできた経験、小川町自然エネルギーファームが市民の資金で、市民の工事で太陽光発電所をつくった経験、原発事故の痛苦の体験から原発でなく地域の自然エネルギーを活用して新たな地域経済をつくろうとしている会津電力の経験、全国の先進である長野県飯田市のとりくみなどに学ぶ活動をしてきました。
また、私たちは、首都圏で市民による再生可能エネルギーの活用をめざしている「市民電力連絡会」に加入し、そこでの経験を学ぶようにしています。いっそう、多くの県民や諸団体、自治体との共同をひろげていきたいと考えています。

M会員:協会では県の補助制度を利用して公益的施設への太陽光発電設備の設置に取り組んでいますが、それ以外の太陽光発電にも取り組んでいると伺いました。その概要その他の自然エネルギーへの取り組みについて、将来の予定も含めて教えてください。
代 表:協会は特定非営利活動法人であるため、事業を行い、利益をあげる活動はできますが、広く呼び掛けて資金を集めること(寄付を除く)や、事業で生まれた利益を分配することはできません。そこで、協会の有志で「株式会社自然エネルギー武蔵」を設立し、市民共同発電所づくりに取り組んでいます。土地を提供して下さる方の好意を活かし、愛知県の「おひさま自然エネルギー株式会社」の力を借りた市民ファンドの募集による資金で、栃木県那須町に50KWの太陽光発電設備を設置しました。2016年7月11日、開所式を開いたところです。
残念ながら、太陽光発電以外の自然エネルギー活用のとりくみは、まだできていません。将来、バイオマスや小水力などにとりくみたいと思いますが、これらはその条件のある地域の住民や団体、企業と共同で行う必要があります。今後、そうした活動を目指していくようにしたいと考えています。

M会員:自然エネルギーへの社会の関心はまだまだ低いと思われます。今後、どのように世論を盛り上げていこうと考えていますか。
代 表:ひとつは、自然エネルギー活用がもつ意義を分かりやすく示すリーフなど、宣伝活動を重視するとともに、多くの方が参加しやすい活動や事業のあり方を探求していきたいと思います。
同時に、私たちと同じ目標をもち、活動している団体などとの共同を重視し、互いに交流し、励まし合ってすすむようにしたいと思います。

M会員:地球温暖化抑制の観点からは、自然エネルギーの普及とともに、省エネルギーの促進も大切だと思いますが、これについてはいかがお考えですか。また、実際に取り組んでいますか?
代 表:おっしゃるとおり、省エネのとりくみはとても大事だと考えています。私たち自身のエネルギー使用を記録し、省エネへのとりくみを交流していくことなどを検討してきましたが、なかなか具体化するまでには至っていません。
私たちの仲間には建築の仕事をされている方もおり、省エネ、ZEH(ゼロエネルギーハウス)やZEH(ゼロエネルギービルディング)などが本格的な課題となりつつあるといわれています。私たちの仲間が働いている大きな病院もあり、エネルギーの使用も膨大な量であると聞いています。その仲間とは温室効果ガスの排出ゼロへ、自然エネルギーの活用とともに、省エネは大きなテーマだと話し合っています。家庭や事業所での省エネのとりくみをともにすすめ、経験を蓄積できればと思います。

M会員:私は今年新規会員になりましたが、会員として必要な条件(知識、技能など)はありますか?
代 表:会員になるのに、特別な知識や技能が必要ということはありません。しかし、私たちの活動をすすめていくためには、会外の人々にも私たちの活動の意義や内容を伝えられるような知識や能力、私たちの事業をすすめていくうえで必要な技術的、経営的、組織的な能力を身につけ、高めていく努力が、私たち自身に求められているのではないか、そんな思いを強くしています。

M会員:協会として、会員の教育や指導、将来に向けた人材の育成に取り組んでいますか?取り組んでいる場合(あるいは取り組もうとしている場合)、具体的にどんなことをしようと思っていますか?
代 表:協会の発展に人材が必要なことはおっしゃるとおりです。とくに、若い方に参加してもらい、事業としても一定の活動費を支払えるように前進していければと願っています。
ただ、会員の教育とか指導も大事ですが、私たちは、お互い仲間として活動していますので、それぞれの個性と能力を活かし、ともに学び合い高め合うような活動を日頃からできればと思っています。もっともっと会員が増え、さまざまな能力を持った仲間がNPOに参加していただき、埼玉自然エネルギー協会としてさまざまな仕事の分担ができるようになればと思っています。

M会員:ありがとうございました。これから一会員として、自然エネルギーの普及に貢献できるよう、いろいろ勉強していきたいと思います。よろしくご指導ください。
代 表:お互いに学び合い、助け合い、励まし合い、力をあわせて前進するようにしましょう。